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【鉛の散弾〜水鳥の鉛中毒】 この文書は、1991年に、ニフティ上の「シューティング&ハンティングフォーラム」と「バードソン広場」の参加者の間で行われた、鉛散弾による水鳥の鉛中毒問題に関する、解決策の模索のための議論をまとめたものである。 参加フォーラムのうち「シューティング&ハンティングフォーラム」は、ハンターなど実銃を扱う人々によって構成されるフォーラム。また「バードソン広場」は、日本野鳥の会の募金イベント・バードソンへの支援を主眼とした自然保護目的のフォーラムである(「自然環境フォーラムFENV」は、この「バードソン広場」を発展的に改組して誕生した)。ぱっと目には、激しく利害が対立しそうな2群の人々が集まり、ひとつの問題の解決のために知識を持ち寄った記録であり、単に自然をめぐる問題の解決のための模索であるにとどまらず、ある意味ではネットワークの黎明期における稀有で幸運な対話の記録とも言えるものであると思う。 このまま埋もれさせてしまうにはもったいない文書であるため、「自然環境フォーラムアーカイヴ(保存書庫)」に収録することにした。 その後の社会的変化により、この議論が行われた頃とは状況が異なる部分はある。本文書をまとめた小冊子や、この情報を生かして作成された広報用ビデオなどが、その社会的変化をもたらした一因となっているのならば、うれしいことである。 2004年1月11日 自然環境フォーラム事務局・猫が好き♪ [目次] ◆はじめに [1/鉛中毒] 1:鳥たちの大量死 2−1:鉛中毒の歴史 2−2:鉛中毒の症状 3−1:水鳥たちの鉛中毒 3−2:水鳥における鉛中毒の症状 3−3:水鳥が鉛中毒に陥るプロセス 3−4:種類のよる差、生態による差 3−5:被害は、直接死亡被害だけではない 3−6:そのほかの被害 4:鉛はどこから来たのか 5:質疑応答 [2/スチールショット] 1:鉛散弾被害を防ぐために 2:そもそも、散弾銃というのはどういうものなのか 3:スチールショットの影響力評価の重要性 3−1:考えられる鉛と鉄の威力の差の問題 3−2:考えられる銃の側の問題 4−1:スチールショットではどの程度威力が低下するのか 4−2:スチールショットに切り替える場合の推奨データ 5:銃の側の問題 5−1:スチールショットは銃身の寿命に影響するか? 5−2:強装弾を使うと銃身の寿命が変わる 5−3:銃の設計の問題 6:コストの問題 7:スチールショット導入の問題点・総まとめ [3/スチールショットの周辺] 1−1:スチールショット導入のための最大の障害 1−2:スチールショット入手の可能性 1−3:現実的な解決策 2:調査について 3:諸外国の対応 [4/議論を終って] ◆アーカイブ版あとがき ◆はじめに 鉛散弾に関する電子会議室は、「シューティング&ハンティング・フォーラム」から「バードソン広場」に対して行われた提案から始まったものである。 鉛散弾が原因となっての鉛中毒による野鳥の死亡は、日本ではようやくごく一部の自然保護関係者などの間で話題になりはじめたばかりの問題だ。そのため、日本語によるまとまった資料はほとんど存在していない。「何かそういった問題があるらしい」ということはうすうす気付いていても、そのことについて深く知るための方法は、まだ日本にはないのだ。 だが、現在の大規模なコンピュータ・ネットワークの中には、さまざまな人がおり、普通では知ることの出来ない知識を教えてもらうことなども可能になりつつある。そこで、シューティング&ハンティング・フォーラムから、日本野鳥の会と深いかかわりのあるバードソン広場に対して、合同でその問題を扱うことが提案されたのだった。 もちろん、バードウォッチャーとハンターとの間には、厳しい立場の差があることは事実である(以前にもシューテイング&ハンティング・フォーラムと、ネイチャー&バード・フォーラムとの間で意見交換が行われたことはあったが、その時にはバードウォッチャーのごく一部からだったが、「鳥を殺すやつらとは会話などしたくない」という声があがったことは事実であり、率直に認めざるを得ない)。 だが、「見る」ためか「捕る」ためかは別として、「そこに鳥や動物がいなければ成立しない趣味を持っている」という一点で、バードウォッチャーとハンターは共通の基盤に立っているとも言える。 同時に、バードウォッチャーの側も、「いますぐに狩猟を全面的に禁止する」などということは出来ないし、すべきでもないということを、直視する必要があるはずだ。 鉛による野鳥の死が続いているという「噂」をもとに、そのことを「事実」として認識すること。そして、それぞれの立場から収集できるさまざまな資料をもとに、「どうやったらその問題を解決できるか」ということを、具体的に考えること。それが、共通の目的となった。 [1/鉛中毒] 1:鳥たちの大量死 1985年2月北海道で、コハクチョウ1羽の死体が発見された。同年12月、オオハクチョウ2羽の死体が発見された。1987年4月、オオハクチョウ1羽の死体が発見された。翌月、更にオオハクチョウ1羽の死体が発見された。同年10月にはタンチョウ1羽の死体が発見された。そして、1989年4月から5月にかけて、北海道美唄市宮島沼で、ハクチョウ類33羽、マガン1羽の死体が発見され、翌1990年には、同じく宮島沼でハクチョウ類18羽、マガン69羽と更に被害は拡大した。 何かがおかしい。鳥たちの大量死の原因調査が行われ、いくつかの報告が出された。 (1) 1988年の「日本生態学会/中国・四国支部大会」で、愛媛大学農学部の本田克久研究員が報告した事例。 1985年から87年にかけて北海道・青森・秋田・新潟で死んだハクチョウ17羽、コハクチョウ8羽を調べたところ、そのうち7羽が肝臓の変色などから鉛中毒死であると判断され、うち3羽の体内から鉛の破片がみつかった。(2) 1988〜1989年シーズンの、北海道大学獣医学部が調査した事例。 白鳥の渡りの中継地として知られる北海道美唄の宮島沼湖畔で白鳥が大量死した事例を、北海道大学獣医学部が調査した。死亡した30羽の解剖所見では、いずれも体内から鉛の破片が見つかったという。なお、北海道大学獣医学部ではその後死因の追跡調査を行い、貧血などを伴う鉛中毒が原因であるとの追加発表をしている。 鉛中毒によって水鳥などが被害を受けているということは、まだ日本では余り注目されていない事実である。そこで、まずわたしたちは、「いったい鉛中毒というのはどういうものなのか」「なぜ水鳥が鉛中毒に陥るのか」といった資料を集めることから、会議を始めた。 この章では、まず鉛散弾問題を考えるためのベースとして、被害状況をはっきりさせるために集められた資料などをまとめる。 2−1:鉛中毒の歴史 鉛中毒は、人類にとって、馴染み深い重金属中毒であると言える。 古代ローマでは、ブドウジュースを煮詰めるために鉛鍋を使い、そうやって煮詰めたシロップを、オリーブやプラムの貯蔵に使ったほか、調理器具として鉛を内張りした青銅器などを使っていた。そのため、貴族階級に鉛の慢性中毒に由来すると思われる通風などが多発したとされている。これは、ローマ帝国の滅亡の遠因になったとも言われている。 現代では、塗料に含まれる鉛による被害が、多数報告されている。 たとえば、1983年から1986年にかけて、浜松市動物園・日本モンキーセンター・横浜野毛山動物園・札幌円山動物園で、鉛丹を含む錆止め塗料によってサルが死亡した例などがある。 また、牧畜動物の被害については、獣医大学の内科の講義には必ず出て来るくらいポピュラーなものとなっており、実例としては1983年に北海道宗谷郡の牧場で柵に塗装を行った直後の放牧場に53頭のウシを放牧したところ、半月の間に25頭が鉛中毒になり、14頭が死亡した事例などが報告されている。 人間も例外ではない。 塗装業者が、再塗装のために以前の塗料をかきおとしている作業や吹き付け塗装などの作業を行っている時に中毒に陥ることがある。 また、鉛の重りを間違って飲み込んだ幼児が鉛中毒の症状を起し死亡した例や、ハンダ付け作業に従事している人が発症した例もある。 ほかに、大きな社会問題となったものとしては、ガソリンに添加されていた4エチル鉛による鉛中毒の事例がある。4エチル鉛は、ガソリンのオクタン価を上げる添加剤として、長年使われて来た。しかし、それが排気ガスとなって排出されることから、道路沿線の鉛汚染につながったほか、ガソリンステーション従業員などの健康障害を引き起こした。 ガソリンに添加されていた鉛は、エンジンの構造変更なども含めて、巨額の社会的出費のもとに、削減が行われた。現在では、ハイオクタンガソリンも含めて、ほとんどのガソリンには鉛は添加されていない。 2−2:鉛中毒の症状 中毒は、急性中毒と慢性中毒に分けることができる。次に、鉛中毒の主な症状を掲げる。 急性中毒 : (水溶性又は速やかに吸収される鉛化合物の摂取又は注射による)鉛中毒の重さは、症状のほか、鉛の血中濃度によって診断される。血中濃度が1デシリットル当り60マイクログラムを越えると、治療が必要だとされている。 体内に吸収された鉛は、主に、脳・肝臓・腎臓・骨に沈着する。脳と肝臓の鉛濃度は血中の5〜10倍になる。骨に沈着した鉛の半減期は32年、腎臓の鉛の半減期は7年とされている。寿命が短い生物の場合、一旦鉛中毒にかかったら、一生全快することはない、ということになる。 3−1:水鳥たちの鉛中毒 世界で最初に鳥の鉛中毒被害が発見されたのは1874年のことだった、とされている。その後、世界各地で被害が続発し、多くの先進国ではすでに対策を立て、実行にうつしているところも多い。 日本で最初に水鳥の鉛中毒がクローズアップされたのは、1989年に北海道の宮島沼でハクチョウが大量死した事件だった。実際には、それ以前から鉛中毒による水鳥の死亡が始まっていたが、「ハクチョウ」という目立つ鳥であったこと、また一気に33羽が死亡したことなど、アトラクティブで大規模な被害であったことから、注目を浴びたわけである。 その後、ハクチョウと同じような場所に棲息するカモ類などにも被害が発生していること、人間の目につく被害よりも遥かに大きな被害が実際には発生しているであろうことなどが、調査や諸外国の資料から判明しつつある。 例によって、日本は未だ実効のあがる対策を立てておらず、国家などによる大規模な調査も1992年からようやく始まったばかりであり、自然保護関係者は憂慮を深めている。 3−2:水鳥における鉛中毒の症状 水鳥が鉛中毒に陥っている場合、外からわかる障害のほか、行動の変化などが見られることがある。また、死亡個体を解剖した場合などに、特有の所見を得ることができる。次に、鉛中毒に陥っているかどうかの目安となる症状・現象を列挙する。 体外からわかる症状(1) 下腹部に胆汁の染みができる体内で発生している症状 3−3:水鳥が鉛中毒に陥るプロセス なぜ水鳥は鉛中毒に陥るのか。それは、水鳥などに特有の「砂嚢(砂肝・筋胃)」と呼ばれる器官を使った食物の消化吸収方法に原因がある。 鳥には「歯」がないため、食べたものを体内で砕き、消化やすくしなければならない。そのために「砂嚢」と呼ばれる器官を持っている。 砂嚢は、食道が変化した袋のような器官で、口と腺胃(本来の「胃」のこと)との間にある。この中に小石などをためこみ、食べたものを小石の間ですりつぶし、消化しやすくするという器官である。飼育下のカモ類などに砂嚢にためておくための小石などを与えないでいると、1週間以内に消化不良を起こすほど、砂嚢による食物のすりつぶしは消化にとって重要な役を果たしている。 鳥は、砂嚢による消化を助けるために、餌のほかに小石などを食べる習性がある。このとき、小石と同時に、狩猟に使われる鉛の散弾や、釣りに使われる鉛の重りを食べることがある。 砂嚢にはいった鉛は、ほかの小石や鉛とこすりあわされ、細かい粒子になる。粒子は、すりつぶされた餌と一緒に腺胃に送られ、胃液(酸)によって溶かされ、吸収しやすい鉛化合物に変化する。そして、鉛が体内に取り込まれ、その水鳥は鉛中毒に陥る。 鉛を飲み込んだあと死亡に至るまでの時間は、もっとも短い場合2日以下、長い場合には3週間程度と見積られている。 なお、散弾による射撃を受け、数粒の散弾があたったが逃げ延びるケースがある。筋肉内にとどまった散弾は、一般に化学的に安定しており、溶け出して鉛中毒に陥ることはまずないと見られている。 しかし、人間の場合も、戦時などによく見られるケースだが、摘出手術が行われず体内に弾丸が残った場合、持続的な鉛被害を受ける場合がある。同様の被害が発生している可能性は否定できない。 3−4:種類のよる差、生態による差 鉛中毒による被害は、地域・種類によってさまざまなケースがある。特定の地域で特定の種が集中的な被害を受けることがあり、逆に目立った被害を受けない場合もある。 まず、水鳥がどの程度の鉛を摂取するか(食べるか)が、習性・地域によってさまざまである。 水鳥の例としてカモ類をあげよう。 カモには、水面採食性のものと潜水採食性のものとがいる。当然、潜水採食性のカモの方が、鉛を飲み込む率が高い。 次に、USA・ヨーロッパ・地中海で行われた捕獲鳥の砂嚢内容物調査による鉛中毒被害個体の割合を掲げる。
地中海での調査は、調査サンプル数が少ないという問題があるが、特に潜水性カモ類で極めて高い被害率であることがわかる。 鉛は重い金属であり、湿地帯では一般に水底に沈んでいる。そのうちヘドロの更に底に沈むため、そうなれば鳥が被害を受ける可能性は減るものの、それまでの間は常に鳥が摂取する可能性がある。 また、水面採食性カモ類などに対しても、彼らは水面に浮いている餌を食べるというわけではなく、水面から容易に採食できる水深20センチないし30センチの水底までを採食範囲としている。そのため、浅い水底にある鉛は、水面採食性カモ類に害を与える可能性がある。 日本国内で捕獲・治療を施された中毒鳥に関する調査によれば、ハクチョウでは平均17個、マガンでは平均で7・5個の鉛粒が見つかった。なお、マガンのなかには48個もの鉛粒を飲み込んでいるものがいた。 また、同様の採食形態の水鳥でも、棲息地の状況によって鉛を摂取することが多い場合と、少ない場合とがある。たとえば、ハクチョウやカモ類の大量死が発生した北海道宮島沼のケースでは、宮島沼特有の水底状況が影響したと考えられている。 宮島沼は、水底の大半が泥で覆われており、適当な小石が少ないという地形的特徴があった。そこで、泥の上にばらまかれた鉛の散弾を、水鳥たちはかなり積極的に飲み込んだ形跡がある。 また、水草が多い部分では、水草に鉛の散弾がひっかかっていたことが確認されている。ハクチョウは、水草とともに鉛の散弾を摂取した可能性が高い。 更に、鉛の摂取量と死亡との関連は、種類などの差が著しい。大量の散弾を飲み込んでもなかなか死亡しない例も希に報告されているし、逆に1粒2粒で速やかに死亡したケースも報告されている。 この差は、種類によって食べるものが異なることに由来すると考えられている。タンパク質・カルシウム・リンなどを多く含む食べ物を摂取する種は、比較的鉛中毒の被害を受けにくい。たとえばオナガガモとマガモの比較では、オナガガモの方が頻繁に鉛を飲み込むと報告されているにもかかわらず、鉛中毒の死亡被害報告はマガモの方が多い。この理由は、オナガガモの方がタンパク質に富んだ餌を食べているからだと思われる。もちろんこの場合でも、死亡に至る例が少ないとはいえ、オナガガモも何だかの健康被害を受けていると考えるべきである。 それ以外にも、それまでの栄養状態がよかった個体などは抵抗力が強い、などの個体差はある。 なお、死亡に至らず回復した場合でも、体内に鉛は残留し、2度目以降の鉛摂取での許容量が低下するとされている。 砂嚢に取り込まれた鉛粒は比較的短期間のうちに分解・消化されてしまう。体内に取り込まれた鉛は、脳・肝臓・腎臓などの内蔵に蓄積され、その鳥の生存能力を低下させる。高い濃度の鉛で汚染された内蔵を持つ水鳥は、砂嚢内に鉛粒を残している個体の3倍にも及ぶという報告がある。 一旦鉛に汚染された個体は、その後の抵抗力が低下し、再び鉛を飲み込んだりした場合に死亡する確率が高くなる。 3−5:被害は、直接死亡被害だけではない 鉛中毒による被害は極めて深刻で、たとえばUSAで1976年に出された報告では、ガンカモ科総個体数の2〜3%が、鉛中毒で死亡していると推定されている。これは、数にして最大240万羽に相当する。 しかし、被害は、直接に死亡をもたらすものだけではない。 鉛中毒に陥った個体は、動きが鈍くなるなどの症状を見せる。その結果、鉛が原因で死亡に至らなくても、キツネなどの肉食動物に狙われやすくなり、捕食されるなどの被害を受ける。直接死亡数を240万羽と見積った報告書は、こういった鉛中毒被害によって間接的に死亡した個体の数については、推定を放棄している。 更に、鉛中毒によって死亡した個体の死体がどの程度発見されるのか、という調査も行われた形跡がある。カモ科の死体を湿地に置いて様子を見るという実験である。この実験の報告は、「死体は速やかに消え、再発見は困難」としており、湿地帯などでの生態系が機能している限り、人類には鉛中毒による死亡の実態を掴むことが事実上不可能であることを示唆している。 なお、この実験を裏付けるような現象がUSAで発生している。 これは、直接に鉛を摂取する可能性がほとんど考えられない猛禽類「ハクトウワシ」の鉛中毒被害である。 ハクトウワシは、水鳥などを捕食する肉食鳥で、USA南部における棲息数は約3000羽と見積られている。この群れのうち、1960年以降だけで、少なくとも144羽が、鉛中毒が原因で死亡している(死体が回収されて鉛中毒による死亡と確認されている)。 これは、鉛中毒に陥った水鳥から鉛を摂取したものと思われ、鉛中毒が直接の当事者である水鳥だけではなく、生態系上位者に向けて被害が拡大していっていることを象徴していると言えよう。 3−6:そのほかの被害 いままでに鉛中毒による死亡が報告された野鳥は、ハクチョウやガンカモ類だけではない。 ハト類、キジ・ライチョウ類、シギチドリ類、フラミンゴ類など、直接には摂取する可能性が低い鳥にも、幅広く被害は及んでいる。 また、鉛中毒に陥った野鳥を狩猟し、高い濃度の鉛に汚染された内蔵類を食べたりした場合、人間にも被害が及ぶ可能性が指摘されている。人間の場合でも、鉛の致死量は、わずか0・5グラムにすぎない。 4:鉛はどこから来たのか 鉛中毒に陥って死亡した個体から発見された鉛粒は、2つのものにわけられる。ひとつは釣りの重りに使われるもので、もうひとつは狩猟用の散弾である。本書では、主として狩猟用の散弾による鉛汚染問題に話をしぼる(というのは、電子会議室参加者に釣り人がいなかったため。釣り人にも参加を呼びかけたが、鉛汚染問題を知っている釣り人が少ないせいか、遂に一人の参加者も現れなかった)。 散弾銃の6号薬莢にはおよそ35グラムの鉛散弾がはいっており、1羽を撃ち落とすまでに数発が使われることが多い。一般に、狩猟は獲物が多いところで行われるため、カモ猟などのために使われる散弾は、そのままガンカモなどの棲息地にばらまかれ、彼らの口にはいるということになる。 自然界にばらまかれる鉛の散弾は少なく見積った値として、ヨーロッパでは毎年1000トンないし2000トン、USAでは2400トンから3000トンといわれている。日本では、環境庁による見積りで、約300トンであるとされている。300トンの鉛散弾は、粒で数えると、約30億個になる。 最初にハクチョウなどの大量死が発生し、日本国内における野鳥の鉛中毒問題を提起したかたちとなった北海道宮島沼は、近隣では唯一、鳥獣保護区の指定を受けていない絶好の猟場であったことも、指摘しておかねばならない。 狩猟に使われる「鉛の散弾」は、野鳥の鉛中毒の原因の有力な一つであることは、明らかだと言えよう。 では、どうすれば、「鉛の散弾」を、自然界にばらまかずに済ませることが出来るのだろうか? 5:質疑応答 鉛散弾に由来する水鳥被害の調査報告と、現場のハンターの実感との食い違いや、すでに実際に何が行われているかなどに関する質疑応答が散発的に行われた。その一部を抜粋する。なお、全文掲載ではなく、編集者の手によって文章の一部には手が入れられていることを、あらかじめ明記しておく。 5−1:宮島沼のその後 Q:宮島沼では、その後鉛散弾被害を食い止めるために、なんらかの対策が取られたのか? 5−2:被害実態の報道について Q:「91/10/16 13:00 SDI00411 私の疑問」5−3:本当に鉛散弾被害は発生しているのか? Q:「91/10/17 00:29 SDI00411 予想されるハンターの反応」 [2/スチールショット] 1:鉛散弾被害を防ぐために 鉛散弾による水鳥などの鉛中毒を防ぐためには、鉛散弾を自然界にまきちらさなければいいわけである。 そのための有効で具体的な方法として、狩猟用散弾の材質を、鉛から鉄に切り替えるというものがある。鉄の散弾、つまり「スチールショット」は、すでにいくつかの国では既に法律などで水鳥を散弾猟する場合にはスチールショットを利用することが義務づけられている。 しかし、日本では、未だ鉛中毒の問題がクローズアップされていないことなども含めた状況から、スチールショットへの切り替えは進んでいない。 この章では、スチールショットへの切り替えに関するさまざまな問題点を洗い出し、切り替えを提案していくために行われた資料収集・分析に関すことがらを扱う。 2:そもそも、散弾銃というのはどういうものなのか さて、ところで「銃」というものは、日本ではハンターなどごく一部の人々を除いて、極めて縁が遠いものだと言える。そこでまず、散弾銃とはどのようなものかということを、ハンター自らに紹介してもらおう。 この文書は、散弾銃の能力などについてバードウォッチャー側から質問があったのに対して回答として提出されたものから抜粋した。 「91/10/16 23:23 MGG02632 狩猟、銃砲の基礎」 さて、ではなぜ銃弾には鉛が使われて来たのだろうか。これには、ふたつの理由がある。 まずひとつに、鉛は比重が非常に重い物質だからだ。 銃弾は、勢いをつけたかたまりを標的にぶつけ、損害を与えることを目的とするものである。この場合、経験からも、「重いもの」の方が威力が大きいことは、容易に思い付く。鉛が銃弾に使われて来た理由のひとつは、鉛が非常に重い物質、比重が重い物質であるということである。 銃弾は、空気の中を飛ぶものだから、空気抵抗によって徐々にスピードが落ちていく。受ける空気抵抗は、銃弾の大きさに比例する。そのために、大きさが小さく、重さが重い銃弾ほど、遠くまで届き、破壊力が大きいということになるわけだ。 世の中には鉛よりも更に重い物質もある。USA軍は、鉛よりも更に重い劣化ウランを銃弾に使ったことさえあるくらいだ。 続いてもうひとつ、鉛は加工が容易な金属だからだ。 鉛は非常に柔らかい金属であり、融点も低い。だから、個人で加工することが、比較的簡単に出来るというメリットがある。 以前は、狩猟用に限らないが、銃弾は自作するものだった。現在でも、散弾銃で発射する単体弾「ライフルド・スラッグ」などは多くの射撃趣味者が自作している。このため、弾体の自作をする場合には、鉛以外の素材に関してはほとんど選択肢がないと言うことができる。 しかし、散弾などについては、現在ではほとんど大量生産された弾体を使うことが多いため、必ずしも鉛でなければならない理由というのは存在しないと考えられる。 3:スチールショットの影響力評価の重要性 いままで使ってきた鉛の散弾から鉄の散弾に切り替えてもらいたいとする場合、関係してくるファクターはふたつある。そのひとつは第1章で扱った「鉛散弾を使ってはいけない理由に、どれだけの説得力があるか」である。もうひとつは、「鉛散弾から鉄散弾に切り替える場合、どの程度の不便・問題点があるのか」ということである。 もしも、散弾が鉛でできていようが鉄でできていようが、威力や使い勝手・コストに全く変わりがないのだったら、切り替えは速やかに行われるだろう。おそらく、切り替え理由の説得力さえも問われないのではないかと思われる。逆に、大きな影響、たとえば極端な威力の低下などがあるのだとしたら、なかなか切り替えは進行せず、それこそ強力な法規制などを待たなければならなくなるかもしれない。 このことは同時に、「スチールショットに切り替える場合に、威力低下などを避けることが出来る」というデータを提出することによって、スチールショットへの切り替えを加速することが出来るかもしれない、ということにもつながる。 では、鉛の散弾からスチールショットへ変更する際に、どのような影響が、特にどのような悪影響が現れる可能性があるのかを見てみよう。そのあとに、個別の影響について検討を進める。 3−1:考えられる鉛と鉄の威力の差の問題 (A) 素材比重の違い 鉛と鉄とでは比重が異なる(同じ体積で比較した場合、鉛の方が重い)。従って、銃弾として使用する場合、比重が重い鉛の方が威力が大きいと言える。 これは、たとえば同じ体積・形状で比重が異なる物体を投げることを考えてみればいい。直径10ミリの鉄球と直径10ミリのプラスチック球とを比較した場合、鉄球の方がものにあたった場合の破壊力は大きい。同様の理由から、鉛の散弾の方が、鉄の散弾(スチールショット)よりも威力が大きい。 (B) 散弾直径と散弾数の関係 同じ物質で散弾を作った場合、散弾の大きさによって、飛ぶ距離は異なる。 これは、空気抵抗は直径の自乗に比例するのに対して、散弾1個当りのエネルギーは直径の3乗に比例するため、直径が大きくなり重さが重くなるに従って空気抵抗を受けにくくなるからである。たとえば10グラムの石と、10グラムの砂を投げた場合、砂の方が重さあたりの空気抵抗が大きいため遠くまで届かないことになる。 これは逆に言えば、比重が軽い物質で散弾を作っても、散弾ひとつひとつの直径をその分大きくすれば威力低下を避けられるということにつながる。 しかし、遠くまで飛ばすために直径の大きい散弾を採用した場合、同じ体積の薬莢の中につめこめる散弾の数は、当然ながら減少する。散弾銃の場合、散弾を散らすことによって一定空域の中の獲物にダメージを与えることが目的であるため、散弾数の減少は命中可能性の低下、ひいては威力の低下につながるという逆効果をももたらす。 つまり、1発の薬莢の中にはいっている「散弾の直径」と「散弾の数」は、反比例の関係にあるということだ。散弾の直径を大きくすれば、散弾1発当りの威力は大きくなるが、散弾の数は減るため、命中可能性は減少する。逆に、散弾の数を増やせば命中可能性は高くなるが、散弾の直径は小さくなるため遠くまで届かないことになる。 散弾の直径も散弾の数も両方増やすと、薬莢のサイズが大きくなり、反動が増えるなどの悪影響がある。 (C) 散弾のコストの問題 鉛と比べて融点が高く硬度も高い鉄を素材とした場合、散弾の価格が上昇する可能性がある。 3−2:考えられる銃の側の問題 (A) 鉄散弾を使うと銃身の寿命に影響する 鉛と比較して鉄は硬いため、銃身に与える衝撃が大きく、銃の寿命が短くなる恐れがある。実験例としては、千発のスチールショットを連続発射したら、銃口部分(チョークのあたり)が広がったという例があったとのこと。 (B) 強装弾を使うと銃身の寿命が変わる 鉛から鉄に切り替え、威力の低下を補うためには、散弾数はそのまま、散弾直径をやや大きくしたり若干火薬量を増やしたりした「強装弾(マグナム弾)」を使うという方法が考えられる。 しかし、強装弾は、通常弾と比べると銃身に与える影響が大きい。従って、銃の寿命が短くなるという恐れがある。 (C) 銃の設計の問題 スチールショットの採用を考えて作られていると思われる新しい銃では、強装弾の採用を前提に薬室などを拡大してあるものがあるが、これまでの銃では、強装弾の採用を前提にせずに薬室を設計してあり、従って通常弾しか使えないものがある。 従って、強装弾によって威力の低下を補うという方法でスチールショットが一般化するに伴い、銃あるいは銃身の買い換えが必要になる可能性がある。 4−1:スチールショットではどの程度威力が低下するのか 何もしないで、散弾サイズも散弾数も薬莢のサイズも同じままで、散弾の材質を鉛から鉄に変更すると、どの程度かははっきりとはしないものの、威力が低下するものと思われる。続いての問題は、「どの程度威力が低下するのか」をはっきりさせ、「威力の低下を補うための方法」があるのならばそれをはっきりと呈示することによってスチールショットへの不信感を解消するということである。 このあたりの資料については、主としてハンター側から資料が提出された。 ※同一直径散弾による比較 まず、材質の比重差による威力の減少を示す資料が出された。 この資料からは、同じ号数(直径)の散弾を採用した場合には、スチールショットは鉛の半分程度の威力しかないことがわかる。速度は2割減にとどまっているにもかかわらず、エネルギーがほぼ半分である理由は、1散弾当りの重量が、スチールの方が軽いためであろう。もともと、軽いスチールショットは、散弾1粒当りのエネルギーが少ないのである。 散弾1粒あたりのエネルギーが少ないということは、獲物に散弾があたった時の衝撃が弱くなることを意味し、鉛散弾ならば撃ち落とせてもスチールショットでは撃ち落とせない可能性が出て来る。 ※鉄2号散弾と鉛4号散弾による比較 そこで、散弾の直径を大きくすることによって、スチールショットの散弾1粒あたりのエネルギーを鉛散弾1粒あたりのエネルギーに匹敵するところまで引き上げたらどうなるか、というのが次に提出された資料である。 この結果、鉛散弾と比較してスチールショットを2号大きくすれば、1散弾当りのエネルギーは、ほとんど変わらなくなるという結果が得られた。 しかし、散弾サイズを拡大しているため、同じ薬莢にロードできる散弾の数は減少しており、命中率においては差が拡大する。 このように、同じ重量の散弾の場合、4号から2号に大きくすると、個数が4割ほど減少する。飛散するパターンが同じであるならば、狙った空域を横切る散弾の数も、減少することになる。散弾直径を2号大きくし、しかも散弾数を減らさないためには、大きなサイズの薬莢を使わなければならない場合がある。 なお、比較のために鉛散弾のケースも掲げたが、鉛4号36グラムと、スチールショット2号36グラムは、重量・個数ともほぼ同じになるため、結論としてほぼ同じ威力を持つものと言える。 また、薬莢サイズを拡大するとなると強装弾を使用することになるような印象があろうが、散弾重量そのものは変わらないため、いわゆる強装弾のような反動増加などの悪影響はないものと思われる。また、火薬量も、散弾の「重さ」との関係で決められるため、ストレートに比例して増えることにはならないものと思われる。 なお、他に、実際にアヒルを撃って殺傷能力を比較した資料が提出された。 これは、1978年から1983年にかけてUSAイリノイ州で行われた実験で、ハンターは31メートルの距離から1795羽のアヒルに対して、のべ2969回発砲したとされる。使用薬莢はいずれも2_3/4インチ12ゲージのもので、結果は次の通り。 詳しい実験環境がよくわからないので断定はできないが、30メートルの距離では事実上あまり差はないということが出来そうだ。 4−2:スチールショットに切り替える場合の推奨データ これらのデータから単純に比例計算をすると、鉛散弾からスチールショットへの切り替えについては、次の推奨値を得ることが出来る。 (A) 散弾直径 鴨猟に使われる鉛4号散弾にかわるスチール散弾としては、2サイズアップした2号散弾が適切である。 (B) 散弾数 散弾数の減少は望ましくないため、散弾量は減らさないようにする。おおむね鉛の散弾の場合と比較して、体積比で3割増し程度のスチールショットをロードすれば、威力にはほとんど差が発生しないと考えられる。 5:銃の側の問題 銃の側の問題として提出されたのは以下の3点。 (A) スチールショットを使うと銃身の寿命に影響する「ハンターではない者の想像の域を出ないが、銃を使ったハンティングという趣味は、銃という『モノ』に対する『モノフェチ』の傾向があるのではないか」と述べたところ、それはその通りだとする意見が多数寄せられた。ある意味で、それまで使ってきた銃に対する愛着などが、スチールショット導入のための大きなネックとなる可能性がある。そこで、この問題が扱われた。 5−1:スチールショットは銃身の寿命に影響するか? スチールショットを利用した実験では、千発程度の連続発射によって銃口部分がふくらんだという実験結果があるということが、装弾メーカーからの情報として提供されている。 散弾銃は、散弾の散らばり具合いをコントロールするために、銃口から5センチ程度の間、最大1ミリ程度絞られている。これをチョークという。銃身後部で打ち出された散弾は、銃口部分のチョークに衝突し、整列した上で打ち出されるようになっている。この部分は、散弾がモロに衝突することから、柔らかい鉛から硬い鉄に散弾材質が変更されると、強度に問題が起こる可能性があることが指摘された。 しかしそもそも、「千発の連続発射」というのはかなり過酷な実験状況であることが指摘できる。銃身にとって「連続発射」は「間欠的な発射」とは異なるものである。 また、千発という単位だが、通常のハンティングにおいてはせいぜい一日当り多くて20発前後しか撃たない、獲物にめぐりあえない時は、一日歩いて一発も撃たないで帰ることもある、といった声がハンターから寄せられた。単純に計算すれば、少なくとも特にスチールショット対策を施していない銃身であっても、実猟500日分の耐久能力はある、ということになる。 この件につき、「最近流行のインナーチョーク銃身は、チョークタイプを可変できるという便利性によって採用されているのではなく、スチールショットによるチョーク劣化(銃口のふくらみ)を防ぐために採用されたという噂もある」とする情報も提供された。 更に、スチールショットが普及しているUSAでも、スチールショット対応銃身というものは発売されていないことから、実際には「殆ど影響はない」とするのが正しい見方なのではないかという意見が、ハンター側から寄せられている。 5−2:強装弾を使うと銃身の寿命が変わる この点については、「スチールショットの威力」の項目で取り上げたことが関係が深い。 スチールショットを採用した薬莢は、同じ程度の威力の鉛散弾採用薬莢と比べて、サイズが大きくなる。一般にサイズが大きい薬莢は、いままでは「強装弾」であったため、スチールショットも同様に反動・銃身に与える影響などが大きくなるように感じられる。 しかし、スチールショット採用薬莢が大きくなるのは、単に散弾の比重が軽いため体積が大きくなったに過ぎず、散弾重量・火薬量などが増えたわけではない。単に、「薬莢のサイズが大きくなった」に過ぎないものと考えられる。 従って、おなじ薬莢サイズの場合、鉛散弾を採用したら「強装弾」となるが、スチールショットを採用した場合には、必ずしも「強装弾」となるわけではない、と言えよう。 スチールショットを使うことは、鉛散弾を採用した強装弾を使うこととは全く異なることであり、強装弾を使った場合のような悪影響を銃身に与えるとは言えない。 5−3:銃の設計の問題 銃の問題として一番大きな問題であると思われるのは、実はこのことである。 スチールショットを利用する場合、威力の低下を招かないためには、鉛散弾を使った薬莢よりもサイズが大きい薬莢を使える銃であることが条件となる。だが、銃は、もともと薬室によって使える最大のサイズの薬莢が決っており、設計サイズよりも大きい薬莢を使うことが出来ない。また、基本的には、どの銃も使用可能最大薬莢サイズを変更することが出来ない。 新しい設計の、現在販売されている実猟銃は3インチの薬莢を使えるように変わって来ているが、いままでの実猟銃の多くは薬莢サイズの上限がもう少し小さく(短く)て2・3/4インチまでのものが多い。なお、USAでは、スチールショット専用の薬莢として3・1/2インチサイズのものが発売されているが、これを使える既製銃が発売されていないという、よくわからない状態があることも判明した(但し、のちほどこの3・1/2インチ薬莢は、日本では使用が禁止されている10番という大口径銃のためのものであることもわかった)。 この問題は、「銃の買い換えにかかるコストの問題」と、「ハンター個人が自分の銃に対して抱いている愛着の問題」の2点に絞られるように思われる。そしていずれもが、スチールショットの採用についてのマイナス要因となる上、効果的な対策が呈示できないものでもある。 6:コストの問題 コストの問題は、銃弾のコストの問題と、銃そのもののコストの問題のふたつに分けられる。 このうち、銃そのもののコストの問題は、上下幅が大きく、いちがいには言えないという意見がハンター側より出された。実際、銃は十年程度は使えるものであると考えられているようで、短い期間でいきなり「鉛散弾の全面禁止」となると影響が大きいとは言えよう。このあたりは、規制方法の問題として取り扱う。 さて、スチールショットのコストだが、現在日本ではスチールショットを採用した既製弾が販売されていないため、USAでのデータが提供された。 ウィンチェスターのカタログより価格比は約1・33倍となっている。 この価格差は、たとえばレミントンの同クラス既製銃弾のうち、輸入品の値段と国内で生産されレミントンブランドで売られているものの値段の差に近いと言える(国産のものは2500円前後、輸入ものは3200円前後)。そしてまた、輸入ものの3200円前後の商品は、価格差のためにほとんど売れていないという状況がある。 従って、スチールショット移行のためには、スチールショットの有効性をハンターに訴え、コストアップについて納得してもらわない限り、自発的な切り替えは困難であると言うことができる。 7:スチールショット導入の問題点・総まとめ 以上で、スチールショットを導入する場合の問題点を、ほぼ全て検討した。 改めて検討結果を列挙する。 (1) スチールショットを導入した場合の、威力の低下は、適切な対策を構じることによって、避けることが可能である。 [3/スチールショットの周辺] 1−1:スチールショット導入のための最大の障害 さまざまな情報を集積していくに従い、電子会議参加者のハンターからも、スチールショットを使ってみたいという意見が出てきた。 現実問題として、ハンティングというスポーツは、かなり経験主義的なものであると言える。また、感覚が大切な趣味であるとも言える。だから、知識の上で、まず「大きな問題はない」ということがわかったら、続いて「実際にためしてみたい」という意見が出るのは当然の成行きだった。 「91/10/18 23:22 PFH01132 実体験がいるのでは?」しかし、これに対するレスポンスとして出された掲示の中に、スチールショットの実体験を積んでいく上で重大な障害があることが判明した。つまり、日本国内ではスチールショットを入手できる状況が、なかったのである。 「91/10/20 22:20 SDI00411 スチールショットのデータです」現在、日本国内で生産されている猟銃の大半は、USAなどに輸出されている。また、USAやヨーロッパでは、すでに水鳥狩猟にはスチールショットを使うのが当然となってきており、強力な法規制がかけられているケースもある。 にもかかわらず日本国内でスチールショットが全く入手できない理由はなにか? 単に、国内ではまだ鉛散弾による水鳥の中毒という問題がポピュラーではなく、若干割高になるスチールショットが商業ベースにのるだけの下地がないという理由によるものだと思われる。 1−2:スチールショット入手の可能性 現実問題としてスチールショットを実際に撃ってみるのは極めて困難だということには変わりはないのだが、個人輸入などについてもさまざまな意見が交換された。実際に入手できるかどうかといったことは別として、1991年の秋の段階でどのような可能性が検討されたかを眺めてみる。 個人でスチールショットを輸入できるか 銃の個人輸入の企画を立てているハンターから、スチールショットを輸入してみてはどうか、というアイディアが出された。 これに対して、銃砲店経営者から、銃部品の輸入についての経験が出された。予想できたことではあるが、かなり面倒なもののようだ。 「91/11/12 22:58 SDI00411 銃や装弾の輸入について」このケースでは、30ドル程度の部品のために、通産省へ3回出向くなどの手間がかかったほか、送金手数料などがかかり、結果として極めて高価なものとなってしまったという。 完成品の輸入が困難ならば USA製品などのスチールショット既製装弾を輸入するのは極めて困難、あるいは非常にコストがかかるということが指摘された。しかし、「それならば完成装弾を輸入しなければいいではないか」という意見が出された。 「91/11/13 06:20 MGG03363 装弾の輸入は」装弾は、薬莢・散弾・火薬・雷管などのさまざまなパーツによって作られている。現在では完成した装弾を購入してきて使うことが多いようだが、手作りで装弾をパーツから組み立てることもある。これを「ハンドローディング」という。 スチールショットは、基本的には「鉛の散弾を鉄に変更したもの」であり、鉄粒以外は日本でも手にはいるものだし、火薬と雷管が含まれていなければ輸入もいくらか簡単になる可能性がある。 続いて、ハンドローディングによるスチールショット装弾作成の可能性とコスト計算が行われた。コスト計算に含まれるものは、以下のもの。 (1) スチールショット用バッファー(散弾の間に詰める粉) (2) フェルトスペーサー(いわゆる毛コロス) (3) オーバーショットカード(いわゆる紙蓋) (4) スチールショット(これぞ鉄散弾) (5) サム1ワッズ (6) スチールショットシェル (7) スチールショットシェル・リローディング・ハンドブック 「91/11/15 00:04 PFF00571 散弾のリローディングはしてますが...」 1−3:現実的な解決策 どうしてもスチールショットを使って実感してみたい、という場合には、上記のように資材を輸入してのハンドローディングか、あるいはUSAに旅行した際に現地で購入し、税関で輸入手続きを行うといった方法が考えられる(これは輸入と比べると遥かに簡単)。 が、いずれにせよ、ハンドローディングは現状ではポピュラーな方法ではないため、「ためし撃ち」程度にはなっても、多くのハンターに実感してもらうための方法論にはなり得ないと思われる。 現実的な解決策としては、商業ベースに乗るかたちでの輸入実務が可能となるよう、まず鉛散弾の問題をハンターにPRしていくことであろう、ということで、ハンター側・バードウォッチャー側の見解は、ほぼ一致した。 2:調査について さまざま鉛散弾による水鳥の鉛中毒についての資料は提出されているものの、いかんせん国内でのデータが少なすぎる、という問題が指摘された。この一連の議論が行われている最中の1991年10月27日に、環境庁が調査を開始するという発表を行ったが、これが全国規模での最初の調査となる。 並行して、ハンターも自主的に調査をするよう心がけたらどうか、という意見が出された。 「91/10/25 01:28 SDI00411 運動の方法について」その後、実際に狩猟を行ったあと、獲物の砂嚢を開いて鉛散弾がはいっていないかどうかのチェックをしたリポートが提出されている。 「91/11/21 03:28 SDI00411 初猟の鴨の砂肝にはとりあえず無し」 「91/11/23 13:10 SDI00411 砂肝調べ」 場所はいずれも利根川。この2件のレポートによると、合計8羽のカモには、いずれも鉛散弾は発見されなかったという。 3:諸外国の対応 1991年6月にベルギーで行われた「鉛散弾による水鳥鉛中毒ワークショップ」において発表された各国の対策スケジュールをベースに、諸外国の対応をまとめておく。 [USA] [4/議論を終って] さまざまな方面から水鳥の鉛中毒の問題を取り扱い、鉛中毒を解決する上での障害や、実現可能な方法論について議論してきた。議論の最終段階で、それまでに提出されたデータや議論の応酬をまとめて、今後の鉛散弾問題対策のための文書を作成することが計画された。それがこの文書である。 この書の最後に、参加者の発言のうち、感想・まとめとおぼしきもの、及びそれに対するコメントをまとめる。 「91/10/29 20:46 MHB01377 狩猟反対といった意見が無いですねぇ」自然保護というのは、多くの方々が「きれいごと」といったイメージを持っているようだ。実際、バードソン広場では、鉛散弾問題以外にもさまざまなテーマが扱われたが、そのなかには「自然保護はキレイゴト」とする批判にどう対処していくか、というものも含まれていた。 しかし、確かに自然保護というのは「きれいごと」である側面もないわけではないが、現場で自然保護実務にたずさわっている人々などは、意外とプラグマティックなものだったりする。 鉛散弾問題を扱う上で、「狩猟なんかやめろ」といった発言をするのはた易いし、確かにそうすれば水鳥の鉛中毒は激減するだろう。だが、現実問題として、そんなことは不可能だし、すべきでもないと思う。 実現可能な方法論の模索、それが現代の自然保護を考える上でもっとも尊重すべきことになっているよう思われる。そういった意味からも、今回の、バードソン広場とシューティング&ハンティング・フォーラムとの共同プロジェクトは、かなりうまく機能したと言えるのではないだろうか。 今後、どのような形で日本における鉛散弾の問題が解決に向かうのかは、まだまだ予断を許さない。強力な法規制による解決になるのかもしれないし、スウェーデンやスイスのようにハンターの自主的な転換によって十分な成果があがるのかもしれない。 しかし、いずれにせよ、「まとまった資料がない」「どういう問題があるのかわからない」といった状況は、そろそろ突破できたと言っていいだろう。 次なるステップは、とにかく実際に国内にスチールショットを導入する足がかりを作ることになろう。 ◆アーカイブ版あとがき このページは、2004年1月11日に「アーカイブ(保存書庫)」扱いでこのURLに登録しました。html化したほか、一部固有名詞を削除させていただきました。 議論が行われたのは1991年でした。その後10年以上が経過し、鉛の散弾をめぐる問題もいろいろと変化してきています。本ページの編集者(猫が好き♪・文中IDはPEH01124)も、本業の経験を見込まれてイギリスで製作された広報ビデオの日本語版ディレクターをさせていただくチャンスにめぐまれるなど、しばらくの間、いろいろと継続して関係してきました。 振り返ってみると、感慨深いものがありますね。 改めて、議論の参加者のみなさまに、感謝申し上げる次第です。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||