自然の権利>【本】黄門さまと犬公方
反感の原因に「生類憐れみの令」があるという説の真偽をさぐる。
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+-00893 2000/12/31 猫が好き♪ 自然の権利>【本】黄門さまと犬公方
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#00893 SDI00600 猫が好き♪ 自然の権利>【本】黄門さまと犬公方
(14) 00/12/31 15:57 00015へのコメント
【タイトル】 黄門さまと犬公方
【サ ブ】
【シリーズ】 文春新書
【著 者】 山室恭子
【発 行】 文芸春秋
【発行年月】 1998/10/20
【ページ数】 254P
【判 型】 新書版
【定 価】 710円+税
【ISBN】 ISBN4-196-660010-9 C0221 \710E
【種 別】 研究書・解説書
【分 野】 歴史
【目 次】 拝啓 黄門さま
光圀ノ巻
第壱章 大義チガヒ申ス〜兄を超えた苦しみ
第弐章 あひはばかる儀御座候て〜密室の秘事
第参章 万歳を唱へて、どよめく〜演技する君主
綱吉ノ巻
第壱章 有栖川殿を御代つぎとせん〜幻の宮将軍
第弐章 人々仁心も出来候様に〜新政に賭けた夢
第参章 鴨ノ手紙差出ス〜迷走する生類憐れみの令
第四章 天くらくして大地鳴りわたり〜あいつぐ天災
第伍章 前代の事をよく言はざる〜新井白石の罪
むすび もののふ二人
拝啓 犬公方さま
史料リスト
年表
【コメント】
まず、本書の性格ですが、山室さんが史料をひもといて表題のおふたかた、
つまり水戸光圀と徳川綱吉の正体に迫る、というものです。ただ、きっちりと
背景まで含めて情報が残っているわけではないので、かなりの推理などがまざ
ります。
おいらは歴史にはウトいので、本書において著者が組み立てた推理が、どの
程度あたっているものなのか、学説として支持され得るものなのかは、わかり
ません。この点については判断を留保。
また、個人的にも全幅の信頼を置くものではありません。ただ、それなりの
説得力はありますし、また史料にあたったという明記がある部分については信
頼しても良いように思われます。
続いて、なんでこの本の紹介が「自然の権利」のスレッドにあるのかを説明
します。
自然の権利運動にかかわりはじめてからしばらくの間、「なぜ日本では、ア
ニマルライトや自然の権利(*1)という考え方に、拒否反応を示すひとがいるの
か」というのが話題になっていた時期がありました。
いちばん簡単な表現で言うと、「人間と動物とどっちが大事なんだよ」とい
うやつになりますか。
*1 念のためですが、「アニマルライト」と「自然の権利」は、全然違うも
のです。前者は動物の個体の福祉にフォーカスをあてるもので、後者は
生態系や人間の自然介入にフォーカスをあてるもの。ただし、一般市民
レベルの理解では、しばしば混同されます。
それどころか、もっと広く「アニマルライト」と「自然保護」という枠
組みでの混同が生じる場合すらあり、いろいろと頭の痛い状況を引き起
こしています。
改めて確認しておけば、「動物の個体保護」と、「自然保護」「自然の
権利」は全く異なる概念であり、しばしばそれらは対立することすらあ
るものです。
その「拒否反応」の源流のひとつ(*2)に、徳川綱吉が施行した、天下の悪法
とも言われる「生類憐れみの令」があるのではないか。
動物を大切にせよと主張する法律が施行され、苛酷に運用をされて、人間が
ないがしろにされたという歴史を、われわれはいろいろなところで習って来ま
す。「アニマルライト」や「自然の権利」という言葉(そして「自然保護」が
含まれる場合もあるのですが)は、その忌まわしい記憶を呼び覚ましてしまう
のではないか(*3)。
そういう仮説が、ありました。
そこで、いつか時間があったら、「生類憐れみの令」について、多少なりと
も調べてみようと思っていたわけです。日本史はほとんど全く勉強していない
おいらレベルでも、わかりやすそうな本だったので、本書を読んでみました。
*2 もちろん、せいぜいがところ「源流のひとつ」くらいにすぎず、これひ
とつに全ての責任を押し付けることはできないでしょう。ただこういう
のは、ひとつひとつ検証していかないと話が始まらないので。
*3 これについても、おれには異論があって。おれは日本史を全然勉強して
いないのだけれども(大学受験は世界史で受けた。大検も日本史はパス
したのではなかったか)、そんでもどうやら平均的一般市民よりは日本
史に関する知識を持っているらしい。
だから、もし拒否反応の源流として「生類憐れみの令」がなんらかの関
係を持つとしても、史実としての「生類憐れみの令」に由来するもので
はなく、人々に伝わるあやふやな伝説としての「生類憐れみの令」に由
来するものにすぎないのではないか、という疑いは持っていました。委
細後述。
で、と。
本書によると、「生類憐れみの令」の現実は、おおむねこんな感じだったよ
うです。
・体系だてて施行された法律ではなかったし、また「動物の個体保護」などを
目的としていたとは言いにくい。なお、もろもろの事情から、市民側のレジ
スタンスが行なわれ、パッチをあてるようなかたちで次々と政策が展開され
て、混迷したのは事実。
・当時の政権関係者などが残した文書などを見ても、ほとんど本法に関する記
述はなく、重要な政策であったとは考えにくい。
・本法が作られた理由として、「綱吉が子どもに恵まれないことについての、
宗教的妄信」「政権に取り入った宗教家の暗躍」などを原因としてあげるも
のがあるが、おそらくその理由はあたっていない(原因となった僧侶と綱吉
が出会う前に、すでに初期の「生類憐れみの令」は発布されていて、時代が
あわない)。
・運用における厳罰説には、根拠がない。綱吉政権の30年間に本法を理由とし
てなされた処罰は、13件の死罪を含む69件にすぎない。また、死罪13件につ
いても、個別に見ていくと、武士階層の礼儀違反などが圧倒的多数を占めて
いる。従って、民衆が本法によって圧迫され、苦しめられていたという時代
描写は、事実無根のように思われる。
しかしこの「生類憐れみの令」は、その当時はさほど大きな問題ではなかっ
たにもかかわらず、後世になってからは大きく取り上げられ、希代の悪法とし
て名を馳せていきます(これは、まだ続いているらしい)。その理由は、本書
によると、おおむねこんな感じだったようです。
・本法は、空前絶後の、面白い法律だった。話のネタにちょうどよい。で、書
き物などにも取り上げられ、それらが後に正史化するなどして、どんどんエ
キセントリックな方向に演出がこらされていった。
・なんせ「絶後」だったので、なんぼでもワルクチが言えた(なお、次代将軍
時に、運用を骨抜きにすることによって、事実上撤廃の方向に向かったよう
ですが、次代が「廃止した」というのは間違いらしい)。
・次代を家宣のブレインだった新井白石なども、もろもろの事情から先代批判
を行なった。なんせ幕臣による記録ですからそれらも公式記録として採用さ
れていますが(たとえば「此年比、此事によりて罪かうぶれるもの、何十万
人といふ数をしらず」。実際には、前述の通り、何十万という数の罪人を量
産するような運用はなされなかった)、公式記録が常に正しいとは限らない
のでありました。
・不運にも、綱吉政権次代には、大火・震災と、災難が続いた。とどめとして
富士山まで噴火してしまった。当時としては、これらは「偶然」ではあり得
ず、「天による施政の評価」として受け止められることであり、「綱吉政権
は悪政であった」という評価が確定する。
ということで、えーと。
おおもとのレベル、つまり「実物大の生類憐れみの令」は、別段たいした悪
法ではなかったようですが、後世になって「それはとんでもない悪法であった」
というフィクションが築かれることになります。
庶民にとって、歴史とは学術ではなく、フィクションですから(それもしば
しばエンターティンメントとしてのフィクションにすぎません)、このフィク
ションの中で「動物を尊重し、人間を軽視した、愚かな君主」として徳川綱吉
のイメージが固まったのは、不思議なことではありません。
また、「愚かな君主の愚かな政策」の代表例として「生類憐れみの令」が鮮
やかに記憶されたということも、あり得ることではないかと思われます。
従って、ある程度は、「自然保護」「アニマルライト」「自然の権利」など
の動きに対する、不適切な攻撃として、「人間と動物とどっちが大事なんだよ」
という批判が浴びせられあり、「生類憐れみの令」を連想させたり、というこ
とがないとは言えませんね。
ただしそれらは、いずれにせよ後世におけるフィクションであり、史的には
あまり関係がないと考えるのが妥当かと思います。
まあ、そんな反論をしても、珍奇で面白い歴史上の出来事として「生類憐れ
みの令」を眺める方々に対していかなる説得力も持たないこともまた、明らか
で、新たな悩みを抱え込んだようなかたちになってしまうわけですが。
*
なお、本書では、綱吉が「生類憐れみの令」を通じて何をやりたかったのか
の推測や、その推測が正しいとして、では並行してどのようなことをやったの
か、などの紹介もなされています。
著者の評価では、どちらかというと、「暴君」ではなく、「開明君主」だっ
たと。しかしどっかしらズレちゃってたり、いまいち政策が機能しなかったり、
前述のような天変地異に直面してしまって業績がかすんだり、といった不運な
開明君主だったのではないか、という感じのようですね。
その個別の推測や結論にいたるまでの道程がどういうものであるかの詳細は
本書をご覧いただくとして、著者は、「綱吉の政策は決して無為なものには終
わらず、江戸幕府のその後の方向を定め、近代・現代へと続くトレンドを創出
したのではないか(あるいは、そのトレンドの創出に寄与したのではないか)」
と、評価しています。これは、高い評価なのではないでしょうか。
このあたりはすでに歴史の闇の彼方であり、なんとも言えない部分が大きい
とは思います。しかし、もしそうであるのなら、「生類憐れみの令」はとにか
くとして、その基盤となった施政方針は決して悪いものではなかったし、想定
した以上の果実をもたらしたと言えるのかもしれません。
【紹 介】 猫が好き♪(PEH01124@nifty.ne.jp, nekosuki@jca.apc.org)
*
ニュースクリップをにかえて初めてみました書評シリーズですが、たぶんこ
れが20世紀最後のものとなります。ではみなさん、いいお年を。
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